古着はかっこいい!大好きなものでお店を始めました<ターコイズ>中下忠志さん
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中学校の先生を60歳で退職して、お店を始める
(中下さん、以下中下)37、8歳頃からでしょうか、ずっと古着屋さんをやりたかったんです。ただ、公務員だったので副業ができない。65歳まで働けるのですが、どうしても古着屋がやりたくて、60歳で定年退職し、両立できる非常勤講師になりました。
でも店舗を構えるとなると、数十万のテナント料を払わなければならない。そのリスクを負う財力もないので、公園でテントでも張って、トラックで始められたら…みたいなことを考えていました。
トラックにはちょっとこだわりがあって、愛媛県の松山で見つけたものです。買ってから、広島のキャンピングカー専門店で上の部分をカスタマイズしてもらいました。そうやってハードは揃ったんですが、問題は売る場所。市の公園維持管理課に行って相談してみましたが、公園では難しいと言われました。
自分では「広島のセントラルパーク」と思っている千田町の広島大学跡地がいいなあと思っていて、諦めきれず現地に赴いたところ、公園と全く境もなく、地続きで立派な建物があったんです。
それが広島トヨペットさんの「CLiP HIROSHIMA」という施設でした。
僕のトラックはトヨタのハイラックスだったので、ダメもとだと思って飛び込んで事情を話したら、担当の方から1時間後には「面白そうですね!」と言われて、トラックで古着の販売をさせてもらえることになりました。
現在は「シュプボックス袋町店」の一角で古着屋「ターコイズ」を営業中。古着好きの若者も来店。
今もはっきり覚えている、古着を好きになったきっかけ
(編集部)古着を好きになったきっかけを教えて下さい。
(中下)今でもはっきり覚えているのですが、バイクの免許を取ってからですね。
バイカーっていうのは基本、ナルシストなので(笑)、信号待ちで停まった時、横が自動車のショールームで鏡だったりすると、それに映る自分の姿をチェックしたりするんです。その時に「新品の服よりも古着の方が合うな」と思って、そこから古着を集め始めました。
(編集部)かっこいいバイク姿を完成させるために古着を着始めたんですね?
(中下)そうなんです。そのうち「将来は古着屋をやりたい」と思うようになりました。古着屋って言っても、僕の場合は私物を売っている、常設のフリマみたいなもの。だから売れなくても、わかる人に見てもらえたら嬉しいですね。
ビンテージ&ダメージが絶妙なジーンズ。バイクに似合いそう!
集めたものは、お気に入りばかり。売るか、売らないか?!
(編集部)お気に入りばかりだと売るのに勇気が要りそうですが…。
(中下)初めて買った「リーバイス501」、これは店頭に出してないです。永久に売らないつもりです。
お店を始めた頃は、売ることをすごくためらってました。想いがあって買った私物ですから、お店に出したり、仕舞ったりして。今はもう、大抵のものは商品として出せるようになりました。たくさん服を見ていると、本当に自分に必要な服がわかってきて「自分には、これとこれさえあれば大丈夫だ」という服が絞られてきたんですね。
(編集部)古着の魅力って何でしょうか?
(中下)ひとつは「時間を纏う」というところ。経年変化を楽しむ感覚です。もうひとつは人とかぶらない、唯一無二というところ。自己満足の世界ですけどね。ナルシストだから、そんな服を着てる自分が好きなんです(笑) 。
バンドTシャツにハンドペイントが施された古着。まさに唯一無二!
古着のこととなると、行動力が出ます
(編集部)古着を着て、お店を始めて…夢が叶っていますね!どんな気分ですか?
(中下)授業が終わったらWi-Fiのあるスタバに行って、Instagramに商品を上げて…。
(編集部)スタバで…かっこいいですね~。
(中下)そんな自分が好きなんでしょうね~(笑)。で、土日になったらお店に来てお気に入りの古着に囲まれて過ごして。(夢が叶って)楽しいです。
(編集部)どんなご縁で、このお店(シュプボックス)のスペースをお借りできることに?
(中下)トラックで出店した「Clip HIROSHIMA」は、夏休み期間中は催事場になるから…寂しいなと思っていたら、このお店で売らせてもらえることになったんです。店のオーナーとは自分がお客だった頃からの知り合いで、古着文化を広島に根付かせたいという想いがある。だから「先生、やるなら貸してあげるよ」って。
本当はシャイなんですけど、古着のこととなると行動力が出ます。友達には「中さん、やりたいやりたいって言ってたけど、ほんとにやるとは思わなかった」って言われます。
ダメ元だと思った公園も、お店も、何でも言ってみるもんだなぁと思います。
編集部員が持って行ったベルボトムのジーンズ。流行った頃の話題で盛り上がります。
思いがけず会える、懐かしい顔
(編集部)思い出に残っているエピソードはありますか?
(中下)それはやっぱり、卒業した教え子がお店に来てくれた時ですね。卒業してから一度も会ってない40代の生徒がInstagramで見つけて公園に会いに来てくれた時は、すごく嬉しかったです。
教え子は延べ3000人くらい。名前はすぐに出てこないんですけど、顔は不思議と覚えていて、顔を見ると「おお~!」となる。中には子どもを連れていたり、彼女、婚約者と一緒にくる子もいます。結婚相手が古着好きで、来てくれたり。
嬉しいです。
「街に生きている」と感じていたい
(編集部)10年後にはどんな自分になっていたいですか?
(中下)このお店もしながら、月に何回かは公園に戻りたいなと思います。
公園って本当に魅力的なんですよ。「公園にいると社会が見える」お世話になった1年ちょっとでそう思うようになりました。
千田町で古着を並べてぼーっとしていると、いろんな人を見かけます。高そうな犬をお散歩させてる高層マンションの住人らしき人。左を見たらワンカップの日本酒を持って座っているおじいちゃん。たぶん年金暮らし。右を見たらお金のなさそうな高校生カップルがいちゃいちゃしてる。日本の社会のことが一目でわかる瞬間があるんです。ワンカップのおじいちゃんを見て、将来の自分の姿かもなと思ったりもするし。公園にいると、自分が「街に生きてる」ということを実感できるんです。
ほかにも、寅さんみたいに、あのトラックにちょこっと古着を載せて全国を周りたい、という夢もあります。行く先々でお宝鑑定団みたいに「あなたのお宝持って来て下さい」とかね。楽しいだろうなあ…!
ユーモアたっぷり、話し上手な中下さん。取材中もたくさん笑わせて頂きました。
プロフィール
中下 忠志(なかした ただし)
【Instagram】@turquoise_fuguri
編集部より
「ナルシストだから…」と冗談を飛ばしつつも、シャイな雰囲気の中下さん。取材を受けて下さってありがとうございました!