手作り料理で地域へ恩返し<こども食堂ごっこ>渡邊葉子さん
手作り料理と顔の見える関係を大切にしている渡邊さんに、こども食堂への想いとこれまでの人生、そしてこれからの夢について伺いました。
いろんな世代が集う、売り切れ御免がない食堂
「こども食堂ごっこ」は福山市の伊勢丘交流館で、毎月第1、第3土曜日の11時から14時に開催されています。
料金はお子さんが無料、大人は200円。高校生も200円ですが、ボランティアに参加したら無料になります。近所のおじいちゃん、おばあちゃんも楽しみにしており、最近は子どもと大人をあわせて130人を超える地域の方が利用することも。
ボランティアも高校生から80代まで、幅広い年齢層の方々が参加しているそうです。
「うちはできる人ができるとき、できることをしてくれればいい。料理が得意な人は料理、応対が好きな人は応対。高校生が子どもと遊んでくれたり、87歳のおばあちゃんも入れ物を数えたり、シールを貼ったりしてくれて。それでOKなんです」
料理は思わず「わあ、美味しそう!」と声がでる彩りの良さ。食材は寄付や限られた予算での調達になると思いますが、メニューはどのように決めるのでしょうか。
「メインメニューを2つ決めていますが、あとはその場で瞬時に決める!みんなでああしよう、こうしよう、グレープフルーツがあるからサラダにしようとか、どんどんアイディアが出るんよね。提供いただいた食材に“想いと工夫”という魔法のスパイスをかけています」
また、食事の提供方法にも渡邊さんのこだわりがありました。
「うちは売り切れ御免がないの。メインが無くなっても、子どもが来たら『これでいい?』ってあるものでパッと作る。こども食堂が終わる14時までは、もれなく食事を提供したい。やっぱり食べて感じるものを受け取ってもらいたいので」
地域で育ててもらった恩返しをしたい
こども食堂に対する渡邊さんの想い。そのルーツはご自身の生い立ちにありました。
「私も母子家庭で育ち、夜は一人でお留守番。でも、近所の方に『ご飯食べた?まだだったら、うちでご飯食べよう』と声をかけていただいたり、今も交流のある同級生のお家に何日も泊めていただいたりと地域で育ててもらいました。だから、恩返しをしないと、死んでも死にきれないような気持ちがありました」
また、お父さまが料理人でした。一緒に暮らすことはなかったものの、子どものころにその仕事ぶりを間近で見て料理を味わう機会もあり、渡邊さんも料理が好きになったそうです。
大人になり、ショットバーや鉄板焼きといった飲食業の道を選びました。30代から一旦、嫁ぎ先の家業に携わりましたが、50代でやっぱり飲食がしたいという気持ちが募り、8年前に「鉄板遊食ごっこ」をオープンしました。
渡邊さんはテレビでこども食堂を知り、以前からやってみたいと思っていました。
「ただ、こども食堂というと、生活困窮者やシングルマザーといった世間のイメージがありますよね。困っている家庭は来ていい、そうでない家庭は来てはダメと振り分けることが、果たして私にできるのかと躊躇していました。軽々しくはできないなって」
そして、こども食堂を始めたきっかけは、コロナ禍にありました。
ちょうどお店が5周年を迎えたとき、福山市に緊急事態宣言が出て「鉄板遊食ごっこ」も営業ができなくなりました。
「店を閉めている間に何をしようかと考えたとき、たまたま店の上階が塾で。頑張っている子どもと、忙しく送り迎えしているお母さんたちがいました。そんな子どもたちも応援される権利があるんじゃないかと思い “おにぎり弁当”を20食ぐらい持っていったのが最初でした」
コロナ禍が徐々に落ち着き、世の中の雰囲気も和らいできたとき、お店の前にお弁当を置いてこども食堂を始めました。
「車通りの多い沿道から見えるので、通っている子がいじめの対象になってもいけんという心配はありました。でもやっぱり、子どもには来る楽しみがあり、お母さんもお弁当があると一食分が楽になるよね。じゃあ、利用する人にこだわらない、誰もが利用できる雰囲気の地域に開かれたこども食堂にしようと」
そこから、こども食堂の活動が広がっていきました。社会福祉協議会や地元の企業にも声をかけ、お米や食材などの寄付に協力してもらうようになりました。
活動が知られるようになり、参加者が増えました。その結果、お店が手狭になり、地域振興課などの手続きを経て、伊勢丘交流館で開催できることになりました。
みんなの居場所が私の居場所に
「味の記憶ってずっと残るんよね。舌が覚えてる」と渡邊さんは言います。
「お父さんやお母さんが作ってくれた、あの料理が美味しかったなあ、と思い出すことがありますよね?そんな風に、私が作った料理を食べた子どもたちが大人になって思い出してくれたら嬉しい」
渡邊さんは「こども食堂ごっこ」やご自身のお店「鉄板遊食 ごっこ」を通じて、子どもたちや地域の人々に居場所を提供していますが、それが渡邊さん自身の居場所にもなっています。
「元気だった?今日は何食べたい?じゃあ作るわ、みたいに人の役に立つのが好きなんでしょうね。二つの“ごっこ”が誰かの居場所になればいい。そして結局、私自身も若い頃から自分の居場所を探していたのかも。顔が見える付き合いで、細く長く、そして深く人と関わる。今はここが私の居場所だと感じています」
渡邊さんは自身が芽吹かせたこども食堂や手作り料理の味を、次の世代に託していきたいと考えています。時代が変わっても、この想いがいつかどこかで花開くことを願って。
人として角が取れ、熟してきた今が一番楽しいと渡邊さんは言います。
「今は喜怒哀楽じゃないの。哀が愛になって、喜怒“愛”楽なんです」
プロフィール
渡邊 葉子(わたなべ ようこ)
こども食堂のボランティア大歓迎、ご寄付も嬉しいです。
こども食堂ごっこホームページ
鉄板遊食 ごっこ(福山市春日台1-18)
編集部より
常連さんは渡邊さんのことを「おかあさん」と呼ぶそう。いつか葉子おかあさんの出汁巻き卵を食べたいです。