マガジン公開日:2025.07.16更新日:2025.07.15

【からくり箱の好奇心|第8回】新しいうちわのある生活

 

夏の風物詩といえば朝顔、すいか、蚊取り線香、うちわ、というのは昭和の昔ばなしだろう。

 

しかし、心地よく空調された部屋にいても、うちわが恋しくなる時がある。あの柔らかな風は単なる涼しさ以上のものを運んでくるようだ。世界には葉っぱや木、鳥の羽などを使った「あおぐ道具」がさまざまに在るが、日本は独自の進化を遂げている。

紙と竹などを使って現在のようなかたちが生まれたのは室町時代のこと。江戸時代には、浮世絵や和歌を描いて粋な飾り物としても愛されるようになったところが、いかにも日本人らしい創意と工夫だ。

 

そして現代、うちわは熱気あふれるアイドルのコンサート会場でも活躍。イラストやメッセージなど好き好きにデコレーションしたうちわを振って熱い想いを発信する、これはもうひとつのメディアだね。大相撲の観客席でも、力士の顔写真やしこ名をあしらったうちわが振られて、勝負を盛り上げているが、手作りのものが多いというのは微笑ましい。

 

かつては「本棚を見ればその人がわかる」と言われたが、今は「どんなうちわを持っているか」で、その人の個性やセンスが垣間見えるかも。センスを発揮するアートになり、自己表現のメディアにもなり、人との繋がりを生むコミュニケーションツールにもなって、うちわの世界は広がっている。

 

今年の夏、とっておきの一本を用意して、新しい「うちわのある生活」を始めてはいかがだろうか。自分の手でゆっくりあおいでいると、静かで豊かな時間がやって来る、と思う。

 

 


■プロフィール

西濱 謙二(にしはま けんじ)

広島市生まれ・在住のライターです。人、街、企業、モノづくりなどの取材と撮影をフリーランスでしています。様々に活躍される方々からお話を聞くご縁に感謝し、同じシニア世代の方々にとって共感したり、和みになったり、小さくとも何かのお役に立てればと願っています。