マガジン公開日:2025.10.08更新日:2025.10.08

【からくり箱の好奇心|第11回】路面電車が走る街。

 

今年、広島電鉄の駅前大橋ルートが開通した。真新しい広島駅ビルの2階に向かって、路面電車が登っていく姿は頼もしく、車内からの風景はなんど見ても愉しい。街を走る路面電車には、どこかほっとする魅力があると思う。大きな駅からオフィス街を抜け、川沿いをのんびり走り、いろいろな街並みや通学する子どもたちの姿が見えて、路面電車の窓にはここに暮らす人たちの日々が映し出されるようだ。

 

バスや地下鉄よりもゆっくりで、歩くよりも速い。その絶妙なスピード感は、街の表情をじっくり眺める時間をくれる。ガタンゴトンと響く音も耳にやさしく、どこか子どものころの記憶を呼び覚ますような気がする。

 

広島をはじめ松山、長崎など観光で巡る人には便利な足になり、札幌では雪の季節になるとササラ電車という除雪専用車が軌道の雪を振り払う。鹿児島は軌道を緑化して、まるで緑のカーペットの上を走っているようだ。旅先でふらりと乗れば、その街の空気を自然に感じられるのも、路面電車ならではの楽しみだろう。

 

昔ながらのレトロな車両に出会うと、思わず写真を撮りたくなるし、最新型の低床電車に乗れば、これからも進化していくんだなと心強い。路面電車は、ただ人を運ぶだけではない。街の思い出や人々の暮らしを未来へつないでくれる、そんな存在なのだ。街に路面電車があるのは幸せのひとつ、と思う。

 


■プロフィール

西濱 謙二(にしはま けんじ)

広島市生まれ・在住のライターです。人、街、企業、モノづくりなどの取材と撮影をフリーランスでしています。様々に活躍される方々からお話を聞くご縁に感謝し、同じシニア世代の方々にとって共感したり、和みになったり、小さくとも何かのお役に立てればと願っています。