マガジン公開日:2025.12.03更新日:2025.11.28

【からくり箱の好奇心|第13回】懐かしいモノの力。

 

散歩の途中に、雑貨店でレコードプレーヤーを見かけた。木目調の天板に、黒いターンテーブル、細長いアームがなんとも繊細な感じがする。若い世代にも人気らしいが、なぜだ。レコードを薄い袋から取り出して、プレーヤーに乗せて、ゆっくり針を下ろす。演奏が始まったら、片面がおわるまでそのまま聞く。途中で針を上げたり、下ろしたりは慎重にしないとレコードを痛めるのが心配・・・とまあ、何かと手間がかかる。しかし、レコードの音には温かみを感じる、ジャケットはアート的で部屋のインテリアが映える、デジタルと違って所有感がある。いわば心地良い不便さが楽しいのだ。

 

レコードのほかにも、フィルムカメラ、万年筆、紙の手帳やダイヤリーなどなど、懐かしいモノが再び人気を集めているが、その理由は何だろう。手間と時間をかけて、機能だけではなく、モノのまわりにある余白をも楽しんでいるのだ。そう言えば、昔の喫茶店のように注文を受けてからコーヒー豆を挽き、一杯ずつ手で淹れるハンドドリップのカフェはどこも人気である。

 

懐かしいモノは、ただ過去を思い出させるだけではない。今を見つめ直すための、小さな灯りでもある。何か忘れ物をしたようで、今の自分の感性はどこに座標があるのかぼんやりしてわからない、そんなときにはゆっくりと一枚のレコードを鳴らしてはいかがだろうか。ていねいに時間を過ごすことで見えてくることがきっとあると思う。

 


■プロフィール

西濱 謙二(にしはま けんじ)

広島市生まれ・在住のライターです。人、街、企業、モノづくりなどの取材と撮影をフリーランスでしています。様々に活躍される方々からお話を聞くご縁に感謝し、同じシニア世代の方々にとって共感したり、和みになったり、小さくとも何かのお役に立てればと願っています。