マガジン公開日:2026.02.12更新日:2026.02.10

【からくり箱の好奇心|第15回】春色のインクで書こう。

 

いつもは静かな文房具売り場が、春の始まりを迎えて華やいでいる。明るい表紙のノートやカラフルな筆記具、洒落た海外ブランドのメモパッドなどが並び、なんとも心躍る光景だ。その中で、ギフトの主役として存在感を放っているのが万年筆である。文字でメッセージを送るときは、まずキーボードに向かう時代。だからこそ、「手で書く」道具が新入学や就職を祝う贈り物として今も選ばれている。なかなか味わい深いじゃないか。

 

さて、万年筆を使う喜びは、デザインや書き心地といった本体だけにとどまらない。どんな色のインクを選ぶかという、奥深い楽しみが広がっている。国内メーカーからは、春の色をイメージした「鶯(うぐいす)」「菫(すみれ)」「夜桜」、和の趣があふれる「竹林」「土筆(つくし)」などのインクが展開されている。フランスの老舗メーカーには香り付きもあり、便りを書く時も、封筒を開ける時も、インクがほのかに香る。さすが香水の国らしい、心憎い演出だ。インクは1瓶1,000円~2,000円程度。少し高価に感じるかもしれないが、例えば20色揃えても、上等なジャケット1着の予算に及ばない。しかも「今日はこの色、明日はあの色」と気分で選べる自由と楽しさが手に入るのだ。

 

万年筆は、普段使い用、少し特別な1本、デザインがお気に入りの1本といった具合に、いくつか手元に置いておきたい。瓶入りのインクを使うために「コンバーター(吸入器)」の用意もお忘れなく。インクはブルーブラックだけ、という人にこそおすすめしたい。手紙や日記に、若葉や花びらなど春色のインクを使ってみよう。言葉と文字で季節を楽しむ、そんな上質な贅沢が万年筆にはちゃんと残っている。

 


■プロフィール

西濱 謙二(にしはま けんじ)

広島市生まれ・在住のライターです。人、街、企業、モノづくりなどの取材と撮影をフリーランスでしています。様々に活躍される方々からお話を聞くご縁に感謝し、同じシニア世代の方々にとって共感したり、和みになったり、小さくとも何かのお役に立てればと願っています。