マガジン公開日:2026.05.08更新日:2026.05.08

【からくり箱の好奇心|第18回】季節を味わう喜び、鯛めし 

 

春が過ぎて新緑の季節を迎えても、桜を愛でる幸せがある。それは桜鯛だ。産卵前でたっぷりと栄養を蓄えた身は引き締まり、脂ものっている。連休や行楽シーズンなど、人が集まる機会には、この桜鯛は格別のごちそうとなる。お造り、塩焼き、澄まし椀など、数ある献立の中で、「鯛めし」は主役級の一品ではなかろうか。

 

「鯛めし」で名高いのは、愛媛県である。西暦3世紀頃、神功皇后が現在の松山市にある鹿島明神を参拝した折、地元の漁師が鯛を米にのせて炊いたものを献上したという。それが今も伝わる松山の「鯛めし」なのだ。ふたを開けた瞬間、湯気とともに立ちのぼる香りに、思わず深く息を吸い込みたくなる。自然と顔がほころぶ。

 

もうひとつは、南予地方で漁師料理として受け継がれる、宇和島の「鯛めし」。こちらは鯛の刺身を甘辛い醤油だれと卵にからめて、熱いご飯にのせる。極上の卵かけご飯として、ファンも多いようだ。さらに近年では、東予地方で洋風の「焼き鯛めし」も考案されたという。

 

そんな「鯛めし」にかける情熱は、和食にとどまらない。イタリア料理では桜鯛のリゾットがある。鯛をはじめ、海老などのシーフードで旨味あふれるスープを作り、米を炊き上げ、焼き目をつけた鯛の切り身を添える。スペイン料理のパエリア風に仕立て、ホットプレートで作れば、出来たての味と香りをみんなで囲める。いずれも食卓を華やかにしてくれるのが、桜鯛という食材の魅力だ。

 

もしできるなら、「鯛の鯛(たいのたい)――鯛の胸びれ付近にある、魚の形をした骨――」を見つけて、子どもたちにプレゼントしてあげよう。江戸時代から、鯛の中に鯛がある、とても「めでたい」縁起物だったというエピソードも添えれば、いっそう大きな笑顔が生まれることだろう。季節を味わう喜びが、皐月の空へ。大きな幟のように泳ぎ出す。

 


■プロフィール

西濱 謙二(にしはま けんじ)

広島市生まれ・在住のライターです。人、街、企業、モノづくりなどの取材と撮影をフリーランスでしています。様々に活躍される方々からお話を聞くご縁に感謝し、同じシニア世代の方々にとって共感したり、和みになったり、小さくとも何かのお役に立てればと願っています。