音楽を聴くように、人生を楽しむ<アナログレコードBAR>赤羽浩司さん

今回の「ZUTTOな人々」を訪ねて、府中町へ。音楽を聴きながらお酒とコーヒーを楽しむ店「PEG(ペグ)」に向かいました。
開店前の時間にもかかわらず、店主の赤羽さんはにこやかな笑顔で出迎えてくださいました。
物腰柔らかく、あたたかな空気感。
その佇まいから、この場所と赤羽さんの人柄が、静かに伝わってきました。
ルーツは兄のお下がりのステレオ

シルバーグレイヘアが素敵な赤羽さん。物腰柔らかく、聞き上手。
赤羽さんは2021年、30年以上務めた医薬品卸売会社を早期退職後、PEG(ペグ)をオープン。
現在は20代から80代まで、幅広い世代のレコード好きが集まるお店になっています。
編集部:音楽が身近になったのは、いつ頃からですか?
赤羽 浩司さん(以下、赤羽): 中学に入った頃かな、兄が使っていたステレオをもらって。それで『サタデー・ナイト・フィーバー』のレコードを聴いたんです。1978年頃でした。
ディスコミュージックが流れてきて、なんというか、胸がザワッとしたのを覚えています。
それがきっかけで、アース・ウィンド・アンド・ファイアーやシック、ニューウェイヴへと音楽の幅は広がっていきました。

レコードに針を落とす眼差しは真剣かつ、嬉しそう。
編集部:今はどのような音楽を聴かれていますか?
赤羽:今は、ジャズが多いですね。あと、30歳ぐらいからアフリカの音楽もよく聴いています。ワールドミュージックが好きです。
編集部:楽器もご自身で演奏されると伺いました。
赤羽:そうですね。ミュージシャンというほどではないですが、ギターやベース、シンセサイザーなど、いろんな楽器に触れてきました。
自分で音を鳴らす、その感覚が好きなんです。

シンプルでセンスが光る、オーディオセット。
早期退職と、「いつかやりたかったこと」
編集部:長年勤めた会社を辞めて、お店を始めようと思った決定的な理由は何だったのでしょうか。
赤羽:一番は、会社で早期退職の募集があったことです。ちょうど役職定年を控えた時期でもあり、これまでの延長線ではない、新しい道を選んでみたいという気持ちが強くなりました。
音楽に関わる仕事をしたい、という思い自体は昔からあったんです。定年を迎えたらやろうかなと考えていましたが、少し早くそのタイミングが来た、という感じでした。
編集部:会社を辞めることに、不安はありませんでしたか?
赤羽:なかったです。自信があったわけではないですが(笑)、どちらかというと楽観的で。
募集があってから1か月くらいで、「これからは好きなことで生きていこう」と、最後は決断しましたね。

心配はなく、楽しみでした。
編集部:ご家族の反応はいかがでしたか?
赤羽:反対はなかったです。息子と娘は「いいんじゃない?」という感じでしたね。
妻は、やっぱり心配はしていたみたいで。でも、反対は全くされなかった。あとから、「まさか本当に辞めるとは思わなかった」とは言われましたけどね(笑)。
お店「PEG」の在り方と、集う人々
編集部:PEGはどんなお店でしょうか。
赤羽:アナログレコードを聴きながら、お酒やコーヒーを楽しんでもらう場所です。でも、本当のところは、私は人の話を聞くのが好きなんです。

コーヒーを丁寧に淹れてくださいました。
編集部:府中町を選んだ理由は?
赤羽:生まれは島根県なんですが、就職をきっかけに広島に来て、このあたりで長く暮らしてきました。府中町は落ち着いた雰囲気があって、気に入っていたんです。自宅に近いというのも大きかったですね。
本当は自宅の1階でやりたかったのですが、いろいろ事情があって難しくて。場所を探していたら、たまたま近くに今の場所を見つけました。
実際に始めてみると、この大きな入口の開放感や、カウンターから見える景色、外を歩く人の姿も含めて好きになりましたし、本当にいいお客さんばかりに恵まれています。
外からも店の中がよく見えるので、お客さんがいない時でも、なるべく座らずに立っているんです(笑)。自分なりのこだわりですね。
編集部:どのようなお客さんが来られますか?
赤羽:地元の方が多いですが、SNSを見て、遠くから来てくださる人もいます。
世代に関わらず、いろんな話を聞かせてもらっています(笑)。

ちょうど若いお客さまが来店。ここでもやはり「聞き上手」。
編集部:印象に残っているエピソードはありますか?
赤羽:最近だと、「結婚しました」という報告を続けていただきました。独身の頃から通ってくれていた方が、1年後にお相手を連れて挨拶に来てくれたり。
あとは、仕事のことで悩んでいた方が、ここで話をして「すっきりしました」と言って帰られることもあります。私はただ聴いているだけなんですが、お役に立てているなら嬉しいですね。
レコードを聴くという「儀式」
編集部:赤羽さんにとって、レコードで音楽を聴く時間はどのような時間ですか?
赤羽:表現が難しいんですけど…。元気が欲しいとか、エネルギーをもらいたい、という感じでもないかも。
編集部:自分だけの時間に集中して向き合う、ということでしょうか。レコードを大切に扱われている印象もあります。
赤羽:ええ、きちんとしたいタイプで、そういうところが、自分の性格にも合っているんだと思います。
編集部:どこか儀式のような感じもありますね。
赤羽:そうですね。ジャケットから出すときに、向きがまっすぐになっていると気持ちいいな、とか。まあ、気軽な感じですが。
そう、A面をジャケットの表側にして収める、というのは必ずやっています(笑)。必ずA面で出したいなと思って。

おすすめのレコードと。木の壁面収納棚にはアナログレコードコレクションがずらりと。
赤羽:やっぱり、ちょっと手間をかけることで、音楽を聴くときの気持ちが変わるんですよね。集中できるというか、言葉にはしにくいですが、レコードには、ちゃんと詰まっている感じがあります。Spotifyとかも聴くんですけど、つい途中で飛ばしたりするので。
CDも家では普通に聴きます。ながらで聴くときはCD、じっくり音に向き合いたいときはレコード。そんなふうに使い分けています。
理想の暮らしと、これからの人生
編集部:今の暮らしはいかがですか?
赤羽:良い感じですね。無理をしていない、ちょうどいい暮らしだと思います。
収入面だけを考えると、若い人には勧められませんけど。シニアになって、家賃などの大きな心配が少なくなってから始めたので、今の形がちょうどいいんだと思います。
生活面でも、少し変化がありました。
昔はそんなに綺麗好きじゃなかったんですが、前の会社の上司にしっかり整理整頓を教育されたお陰で、40歳を過ぎた頃にはすっかり綺麗好きになって(笑)。今は毎日、自分がお風呂掃除を担当していますし、妻が働いているので、週に4回くらいは食事も作ります。
編集部:好きなことを続けるために大切なことは何だと思われますか?
赤羽:「くよくよしない、前向きに」ということと、もうひとつは、「とりあえずやってみること」でしょうか。
お店を畳むときが来たら、この場所を引き継いでくれる若い人がいたらいいな、なんて考えたりもしています。
開店まではお店のスペースが空いているので、この場所を誰かに貸すのも面白いかもしれないですね。ご近所のサークルとか、副業で試してみたい方とか…気軽に、ふらっと集まれる場として。
そしたら僕はコーヒーと音楽を担当しようかな(笑)。

夜のPEG。昼とは雰囲気が変わり、ぐっと大人な雰囲気です。
PEG インスタグラム
プロフィール
赤羽 浩司(あかば こうじ)
2021年、30年以上務めた医薬品卸売会社を早期退職後、府中町にPEG(ペグ)をオープン。






