プロレス魂で地域づくりを全力応援<尾道市吉和公民館館長>金田吉弘さん
定年退職後、館長として公民館を任せたいと頼まれたそうです。「生まれ故郷のお役に立てる、うれしいことじゃないですか」と、新たな生き方に向かってライフシフトを決意。明るく語る表情は、会うと元気をもらえると評判のローランド金田その人でした。
プロレスの実況中継から、伝える楽しさを実感
金田さんは小学生の時、プロレスに出会いました。毎週のテレビ中継に熱中し、実況アナウンスをカセットテープに録音しては、すべて覚えるほど繰り返し聞いたそうです。
「私は子供時代に吃音があり、人前でうまく話せないことに悩み、国語の音読はとくに苦手でした。それがプロレスを大好きになり、実況のトークを真似するわけです。“さあ、得意技のキックが出ました!”とか、アナウンサーのつもりで思いっきり声を出してたら、いつのまにかスムーズに話せる自分に気づきました。プロレスのおかげで性格も積極的になりました」
尾道東高校の頃はプロレス会場にマイクとレコーダーを持参し、友人たちとリングサイドで実況に挑戦。
「3人組でそれぞれ担当を決め、解説者、元プロレスラー、そしてアナウンサーの役はもちろん私です。試合開始のゴングで実況を始めたら、セコンド役の若手レスラーや観客が驚き、感心してましたね。人に何かを伝えるのは楽しいと実感し、これからも続けていこうと思いました」
憧れのアントニオ猪木さんにインタビューをしたのも、高校生の時です。何度も通っていると、“おお、また来たか”と声をかけてもらったのは思い出のひとつになっています。
「ローランド金田」として地域を盛り上げ
地元の企業に就職してからは、来店客用に番組スタイルの店内放送を制作。新製品情報をはじめバラエティあふれる1時間番組は人気を集め、社内外からも注目。プロレス実況で磨いたトークが、「ローランド金田」の誕生へとつながっていきます。
「地元のケーブルテレビ局から“尾道ベッチャー祭”をプロレス中継のように実況して欲しい、と声がかかったときはいよいよ自分の出番が来たとうれしかったですね。鬼の面を付けた氏子と獅子が、街を練り歩き、子どもを追い回す、祭の様子を迫力いっぱいに伝えました」
プロレス仕込みのライブ感あふれるトークは評判を呼び、やがてニュースやスポーツなど「ローランド金田」として出演が増えていきました。地元を代表するイベント“尾道みなと祭”の司会も担当し、「会うと元気になれる」「尾道のお祭り男」として地域を盛り上げに貢献しています。
定年を節目に、新たな生き方を選びました
定年後はゆっくりしようとお考えでしたが、旧知の市議会議員から声がかかり、公民館の館長に就任。
「会社員時代から地域活動には少しずつ携わってきましたから、ここでもうひとふんばり。館長という新しいポジションから全力で取り組もうと考えました」
全国各地で人口減少・少子高齢化・地域コミュニティーの喪失などが課題です。そうした現状に、金田さんはこう考えています。
「公民館は地域をつなぐコーディネーターとして、“人づくり、つながりづくり、地域づくり”を具現化したいと思います。とくに関心を持っているのは“教育・環境・健康”です。これらは相互にリンクしていますから、より良く立て直すことで将来は広がります。尾道には“観光”も欠かせない要素ですね。これら“4つのK”について、私はいつも思索を重ねていると言っても過言ではありません」
このたび小学校、中学校と連携して、新たな取り組みをスタートしました。
「現代の子どもたちが、“すごい!やばい!うざい!”だけで会話を完結させていることに不安を感じます。そこで私の“トークの技術”を活かして“実況講座”を開きます。子どもたちが大人になった時に人としっかりと対話できるように豊富なボキャブラリーや、会話の力を身につけるきっかけをつくります。大きな声で恥ずかしがらず話し、聞いた人が楽しくなる、“トーク”を身に着ける授業を行います」
公民館はいろいろなことに挑むことができるので、無限の可能性と楽しさがあると金田さんは期待しています。
「以前、アントニオ猪木さんに教わった言葉があります。“誰もやらないことを夢として挑戦する”、“夢なき時代と嘆くより夢を作る人となれ”、これを心に描き、実践したいと思います。館長という大役を任せてくださった地域のために、“町の活性化”と“元気人の醸成工場”をテーマに励んでまいります。私は死ぬまで周りに元氣を届け続けますよ‼」
プロフィール
金田 吉弘(かねだ よしひろ)
編集部より
取材を終え、吉和公民館をおいとまする際、金田さんが「また、ぜひ来てくださいね!」と声をかけてくださいました。その温かなお人柄に、会ったばかりなのに昔から知っている方、まるで親戚のような懐かしさを感じました。不思議な感覚でした。
後日、金田さんから、取材当日、話しきれなかった「公民館館長としてずっと取り組みたいこと」について、熱く綴られたメールもいただきました。地元愛と言葉で伝えることへの喜びに溢れた金田さん。今後のご活躍が楽しみです。