広島に生まれて被爆と平和を語る<ボランティアガイド>岩田美穂さん
今、ここにある平和を実感し、守る心を育てたい
お茶の専門店「綿岡大雅園」の三代目、岩田美穂さんはお店を切り盛りするかたわら、ボランティアガイドを長く続けています。
「本川小学校は、爆心地から350メートルの距離にあります。被爆した校舎の一部は大切に保管されて、今は平和資料館になりました。修学旅行の生徒たちをはじめ、観光で訪れた人、国内外の教育関係者、政府の要人まで多くの方が見学されます。私はガイドとして皆さんを迎え、被爆した母の体験やここで起きたことをお話しています」
戦争の歴史に加えて、世界の紛争や環境問題など幅広い知識も必要なことがあり、ガイドとしては日頃から勉強が欠かせないとか。
「人々がおだやかに暮らしていた街があった、それが被爆によって一瞬で失われました。それが戦争の恐ろしさで、もしかすると未来においても起きるかも知れない。だからこそ今ある平和を大切に、努力して守らなくてはならないですねと語りかけるようにしています」
資料館での活動をご覧になった方から、ぜひ岩田さんにお願いしたいとガイドの依頼があるそう。
「広島市内から近郊、市外の小中学校に出かけたり、県外からの修学旅行生向け平和講座を行ったりしています。学校の先生同士の口コミから、ネットワークで広がっているようですね。そのときは、自分で資料を作っています。被爆前の広島について、当時の映像などを使ってお話をするんです」
岩田さんのお話から、1冊の絵本が生まれました。
「私の母の被爆体験について、ボランティア仲間でもある絵本作家がぜひ本にしましょうと企画してくれて、絵本『いわたくんちのおばあちゃん』が出版されました。この本は小学校の教科書に掲載されて、低学年の子どもにガイドとしてお話をするときなどに使っています」
実家の仕事や子育てに忙しい中でもガイドを続けました
本川小学校は岩田さんの母校であり、2人のご子息も入学されました。
「ボランティアガイドになったのは、PTA活動がきっかけです。平和資料館の見学者のために、本川小学校ではPTAの方々がボランティアで案内役を務めていました。私はその頃、実家のお店や子育てで忙しいときでしたが、意義のあることだと思って参加して、もう20年以上も続けています」
子どもたちが卒業した後もボランティアガイドを続けて、現在は特定の組織に属することなくフリーな立場で活動されています。
「最近は広島市内の小学校などに出かけて、お話する機会も増えてきました。子どもたちの思いがけない質問にも対応できるよう、よりわかりやすくと心がけています。先頃、ノーベル平和賞を日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)が受賞しましたが、これも皆さんに伝えたいことのひとつです。ガイドの役割はひととおりの歴史や情報を覚えておしまいではなく、時代に即して、情報のアップデートも大切にしています」
実家のお店は、岩田さんが三代目として経営者になりました。
「以前から店の仕事は手伝っていましたが、母が亡くなりましたので、私が事業を継承しました。大正12年に祖父が創業し、戦後に父と母が苦労して再建した、百年の歴史を引き継いでいます」
お茶の魅力を発信することにも積極的に取り組まれています。
「気兼ねなく身近に楽しんでもらいたいと思い、“お抹茶講座”“おいしいお茶の淹れ方講座”“ゆるゆる茶道教室”などを開催しています。この体験をとおして、お茶のファンが広がっていけたらと期待しています」
この街の語り部として、誠実に使命を繋いでいく
お茶の店には、外国人の来店が増えているようですね。
「まさに日本独特の商品を売る店ですから、とても興味津々でお越しです。煎茶を淹れるか、お抹茶を点てるか、お好きな方を選び、和菓子と一緒に味わってもらいます。お茶のルーツをはじめ、いろいろなお話をしながら体験できるのが好評ですね」
本川小学校平和資料館にも外国人観光客も訪れています。
「彼らの多くは広島平和記念資料館、袋町小学校平和資料館などを巡り、ここに来館するほど平和に関する意識の高い人が多いすね。今後は外国人の来館者向けにプログラムの充実を図りたいと思います。先ほどご紹介した絵本を、英語版で出版しようという計画もあるんですよ。私自身も、英語でガイドできるようになりたいと思っています。」
2025年は太平洋戦争の終結から85年目を迎えます。
「私たちの世代では、被爆した方や戦争を体験した方がご近所にいるのはごく普通のことでした。しかし、歳月とともに高齢化が進み、お話を聞く機会は失われていくばかりです。なにか方策はないかと、私なりに考えてみたいと思っています。ボランティアガイドの後進については、おかげさまで活動に興味を持つ方がおり、私も声をかけるなどして、ひと安心できる状況です。広島で祖父が始めたお店を継ぎ、家族の被爆体験を語り続けていることには、とても深いこ゚縁を感じています。この街の語り部の一人として、次の世代へ誠実に使命を繋いでいきたいと思っています」
プロフィール
岩田 美穂(いわた みほ 旧姓 綿岡)
編集部より
こんな風に語り継いで下さっている方がいることに、広島市民として感謝したいです。