ニヤッとする生活道具で、世界が平和になるのかも<plus c>二井谷さんご夫妻
雑貨とインテリアが大好きな高校の同級生二人が結婚し、お店を開いて25年。
お店と共に歩んできた、お二人の物語をお聞きしました。
目次
両親に「好きにしていい」と言われて
(信荘さん、以下信荘)代々この地で呉服商を営んでいて、後を継いで4代目となるはずでした。でも両親から「もうお前の時代だ、好きにしていい」と言われて。インテリア・雑貨のお店に通うのが好きで、自分もしてみたいと言ったら「面白そうだ」と賛成してくれました。
可部は出雲への街道との分かれ道で、昔は宿場町として栄えていたけど、現代は通過点っぽくてちょっと寂しくて、行く所もない感じでした。だから、自分たちが行って楽しめるお店があったらいいなと思ったんです。
妻は高校時代の同級生で、当時は友達。でも就職して再会したら、お互いに雑貨やインテリアが好きとわかって、意気投合しました。お互い仕事を続けながら、開店準備を始めました。東京に仕入先を探しに行ったり、自宅兼店舗の建て替えを進めたりと、忙しい日々でしたね。
新しい店舗は鉄骨造の建物。可部の古い街並みに建つと違和感があるだろうなと思ったけど、ガラスを使うのが得意な建築士の方に頼んだので、圧迫感のないものにして頂けました。きっと町の人は「いったい何ができるんだろう?」と思っていたでしょうね(笑)

床から天井までガラス張りの店内。光に溢れた気持ちのいい空間です。
「general store /plus c(プラスシー)」という名前の由来
(千愛さん、以下千愛)当時はフランス語の店名が多かったんですが、流行で名前をつけるより記号みたいなのがいいと夫が言い出して「+c」にしました。Cって爽やかな響きで、Cで始まるいい言葉も多いんですよね。クリア、コミュニケーション、カーム…。それらをすべて含んだCです。
でも最初は「+c」を「プラッシー」とか、プラスを「じゅう」とか読まれたり、ガラスの館って呼ばれたり…それくらい店名が定着しませんでした。
だから開店から16年目にリニューアルした時、アルファベットの「plus c」にして、同時に「general store」という言葉を付けました。「荒物屋」とか「田舎のよろずや」という意味です。値段の高いものが良いとも思いませんし、カッコつけたものじゃなく「生活の道具を扱うお店」という感じでやっていきたいですね。

様々な日常の道具が置かれた店内。使ってみたくなるものばかり。
16年目のピンチ
(千愛)お店を開いてしばらくして父が亡くなって、飼っていた犬が年を取って夜鳴きするようになり、母が救急車で運ばれ、私は病気になりました。主人も原因不明の微熱が続いたりして…。それでもお店は開けていたんですが、仕入れもできない、お客様がいらしても笑顔が出ない。そんな中で主人が「カフェをやめようと思う」って。
当時はお店の半分くらいがカフェスペースだったんです。でも私は体重が激減してケーキも作れないし、夜間に母や犬のお世話もあります。母を病院に連れて行く日に臨時休業していたら、お客様から「いつも閉まってるね」と言われたりもしました。それで2015年の終わりに一旦お店を閉めたんです。
閉めた期間に什器を作って、カフェスペースをショップスペースに変えて、2016年の春にリニューアルオープン。カフェがないとお店に一人いればいいので、どうにか再開できました。
(信荘)オープン当初は自分たちの好きなものを置きたい気持ちが強かったんですが、雑貨屋をしているといろんな営業の方も来られます。すすめられて置いたものが売れて、喜ばれるお客様もいるんですけど、自分たちのカラーでなくなっていく感じがしていました。
だからリニューアルの時には「この機会にオープン当初の気持ちに戻そう」と思って。
今もまだ完璧でないけど ──商売ですから完璧にそれをやっちゃうと売れない店になりそうな予感もあるので(大笑)── 今は様子を見つつバランスを取りつつ、そっちに向かえたらいいなあ…と思っています。

2021年、自分達の手に合うサイズでカフェを再開。ステンレスのカウンターはご友人が磨いてくれたそう。
人の輪が広がるのを感じながら
(信荘・千愛)店先で定期的に「シャンティMarche(マルシェ)」を開催してもう42回目になります。きっかけは私たちがパリ郊外の友人の家に行った時、近くのマルシェの写真をお見せしたこと。それを見た有機野菜の移動販売している来須さんが「地元に根付くような、イベントじゃないマルシェがしたい!だから店先を貸して下さい」って連絡をくれたんです。
来須さんの紹介でドーナツ屋さんや花屋さん、いろんな方が集まって、何年か続けていると、向こうから出店したいと言ってくれる人も出て来て。可部、高陽、豊平、安佐南区、五日市、三次や呉の方…地元に偏らず広い範囲から出店者が来て下さっています。
最初の頃は出店者さんの知り合いの方が買いに来てくれることが多かったと思いますが、ある時期から、自転車に乗った若いママが「子どもに安心・安全なものを食べさせたい」と来て下さるようになった。近所の方が来て下さるようになったのも、嬉しかったですね。
これからの「plus c(プラスシー)」
(信荘)固定概念なく、その時の自分の気持ちに沿ってと思っています。ただ何かしら商売はしたい。今のようなお店でなくても、人とは繋がり続けていくと思います。例えば雑貨はやめて食べ物を作って売るようになるかもしれないし、物を作って売るようになるかもしれないけど、自分らしい「plus c」ではありたいですね。
(千愛)主人は商売人の家に生まれたけど、実は作る方が好きなのかなと思います。商売がうまく行かなくなったらここをアトリエにしてみんなに見てもらって、私はシフォンケーキを売って…そういうのも面白いかもしれませんね。自分たちが60代になることを、凄くおじいちゃんおばあちゃんになっているのかと思ってたんですけど、意外に動けるんだなと感じでいますし。
それから、私はこの場が「サードプレイス」であり続けられたらいいなと思います。ここでちょっと一休みすると元気が出ておうちに帰る、そういう場所。
…実は今も、物を売るだけじゃなくて使ってもらった時に「いい気分になってもらう」のが目的なんです。自分たちの気分が良くなるものを置いて、それを気に入った人が買って下さって、使っている時にちょっと「へへっ」とニヤけたりとか、そういう気分を持って帰ってもらいたい。幸せな気分だと、その時間だけは人と争うこともないし、世界が平和になる気がするんです。みんなが楽しく暮らせれば、人のモノも盗らずに、世の中やっていけるんじゃないかと思います。

手に取るとニヤッとしてしまうお気に入りを選んで頂きました。信荘さんは手編みのカゴ。千愛さんは金の釉薬が渋く光るお皿。
プロフィール
二井谷 信荘(にいたに しんそう) 二井谷 千愛(にいたに ちえ)