家具づくりは決してシニアに優しい作業ではない。でも、働く喜びに満ち溢れた仕事である。
佐伯工場では主にチェア・ソファ類を製造。同社では全従業員数325名(グループ内2社合計)のうち、約3分の1となる106名が60歳以上とのこと。佐伯工場でも60代~80代の方が活躍されています。
まずは、3名のシニア従業員の方にご協力いただき、それぞれのお仕事について、お話をお聞きしました。
※記載の情報はいずれも2024年9月現在。
好きなモノづくりで、入社時より健康に
浜田 秀雄(はまだ ひでお)さま
浜田さんは勤続年数17年の78歳。ソファの肘部分の組み立て等、仕上げの作業を担当されています。
30年務めた自動車部品等のプレスの会社を定年退職後、求人情報を見て浜本工芸に就職されました。
■仕事をしていて、良かったことはありますか?
モノづくりが好きだから、仕事が楽しいね。
実は浜本工芸に入社した当時、膝が痛かったんですよ。でも、浜本工芸に勤めるようになってから、体を動かす仕事だし、スクワットを100回したり、サプリメントを飲んだりして、逆に健康になった(笑)。
最初はパートだったけど、今は8時半から17時半のフルタイム。夏バテもせんし、休んでないね。30キロの道のりを車通勤しています。車が好きだから。
■仕事で「大変だ」と感じる時はありますか?
ソファは張りが重要なので、力がいります。夏はいいけど、冬は(革・生地などが)固くなるので大変かな。
■社内の雰囲気はいかがですか?
会社の雰囲気は良いよ。社員は優しくて真面目な印象。40代の同僚とドライブに行ったこともある。
■仕事に「やりがい」と感じることはありますか?
担当がソファの仕上げ工程なので、充実感があります。子どもにも浜本工芸の製品を奨めているよ。
■これからも働き続けたいですか?
会社の契約の続くかぎり続けたい。車に乗れるうちは続けたいですね。
自分に合った、自分のペースでできる仕事
宮本 法子(みやもと のりこ)さま
ソファ内部のウレタンの接着を担当している宮本さん。勤続年数6年の68歳で小柄な方ですが、大きな台車にウレタンを目いっぱい積んで、軽々と運んでおられました。
前職では別会社でウレタンを切るお仕事だったそう。その会社が無くなったことを機に、浜本工芸に就職。浜田さんと同じく、8時半から17時半までのフルタイム勤務です。
■ウレタン接着のお仕事は楽しいですか?
そうですね、もともと手先を使う仕事が好きです。逆に事務はムリ(笑)。
■逆に大変だと思うことはありますか?
大きいものにウレタンを貼る作業はしんどいです。重たいソファのベースをぐるぐる回しながらウレタンを貼り上げるので。向きを変えるのが大変ですね。
■社内での交流についてお聞かせください
一人でする仕事なので、作業中のコミュニケーションはそんなに多くありませんが、同僚とランチを外に食べにいったりしています。
■これからも働き続けたいですか?
年金のこともあるので、70歳までは働きたい。あと、家にいて何もせずにいるとなまってしまうから、仕事があると良いかな。自分のペースでできる仕事ですし。
同僚に追いつけるよう、努力したい
河野 孝志(こうの たかし)さま
河野さんは勤続3年の68歳。椅子の木部パーツの研磨を担当されています。
前職は金属塗装で、アストラムライン関連のお仕事もされていたそう。
■浜本工芸で働きたいと思った理由は?
職場が家から近かったのと、流れ作業というものを経験してみたかったからかな?
■仕事で「大変だ」と感じる時はありますか?
最初はパーツのどこまで削ったらよいか、わからんかった。(製品の全体像がイメージしにくい工程なので)完成品をイメージしながら、やっていますね。
(後ろのご自身より若いメンバーを差して)あの人すごいんよ、あの人に追いつきたいなと思って努力しています。
■工場内の掲示物(お客様の声など)がありますが、ご覧になりますか?
クレームの掲示物は必ず見ます。自分の工程の責任だったら、気を付けないといけない。
■今後の目標はありますか?一日に何個仕上げるなど
同じ部署の人が残業しなくてもいいように、頑張って仕上げておきたいね。
シニア採用も社風とのマッチングが重要に
お話を伺った3名の方は、いずれも60歳を過ぎて入社されました。浜本工芸にお勤めの60歳以上106名のうち、過半数にあたる62名が同じく60歳以降の新規採用とのこと。
その背景を求人採用・広報担当の川路さまと佐伯工場・工場長の桑原さまにお聞きしました。
(左)求人採用部・開発部 川路 淳一(かわじ じゅんいち)さま
(右)佐伯工場 工場長 桑原 巧(くわはら たくみ)さま
■貴社のシニア雇用への取組はいつからでしょうか?
創業時から60代のパートの方など、年配の従業員はいました。ただ、1990年代に新卒の求人難等で人手不足になった際、60歳以上の方も6~8時間の勤務にシフトしていきました。今現在は60代の定着率が高くなっており、嬉しい状況です。
ただ、3名の業務からもわかるように、工場での仕事は体力がないとできません。そして、丁寧さとスピードの両方が重視されます。
ですので、シニアの新規採用も、どんな方でもよいというわけではありません。
職場の空気を乱す人がいると良くないので、人となりを見させていただいています。真面目でコツコツ取り組む方に来ていただきたいですね。
■シニア雇用の良い効果についてお聞かせください
シニアメンバーが経験の浅い若いメンバーの良き相談相手になっています。業務の上で、若いメンバーがシニアメンバーに指示を出す場面もあります。最初は戸惑いも見られますが、コミュニケーションをとるうちに、人生の先輩であるシニアメンバーから仕事以外のアドバイスももらえる関係になっているようですね。
■シニア雇用の悩みや課題をお聞かせください
勇退のタイミングでしょうか。当社はシニアメンバーも長期雇用を前提にしています。ただ、年齢を重ねればどうしても体力は衰えていきます。本人が働きたい気持ちがある以上、勇退を言い出しにくいですが、そこは対話しながら決めています。
また、シニアメンバーの中には、当社に欠かせないスキルを持った方もいます。現在、最高齢のメンバーが勤続60年の83歳ですが、浜本工芸の家具づくりを陰で支えている工具「治具(じぐ)*」づくりにおいては、その方の意見が欠かせません。
*:家具の加工や組立てをするとき、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために使用する工具
■今後の展望があればお聞かせください
今、家具製造業界は求人に苦戦しています。その状況の中でも、浜本工芸はシニア・女性・障碍者雇用ができており、ありがたいと思っています。今後は60代の定着率をあげながら、若手社員を育てていきたいですね。
プロフィール
浜本工芸株式会社
佐伯工場/広島県廿日市市津田106
TEL/082-255-0001
URL/https://www.hamamotokougei.co.jp/
事業内容/木製洋家具の製造販売
編集部より
取材に伺ったのが13時台だったので、社員の方が芝生スペースでお昼休憩をされていました。本文中でご紹介できなかったのですが、農園で収穫されたプチトマトも見せていただきました。
工場内では社員の皆さまがもくもくと作業をされてしました。ただ、一旦インタビューが始まると、皆さまユーモアを交えながら、たくさんお話くださいました。
浜田さまが「社員は優しくて真面目な方が多い」とおっしゃっていましたが、それにプラスして、皆さまのポジティブさ、前向きさについても、深く印象に残った取材でした。