広島の山と海が育てる、これからの人生を楽しむ一杯|株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー

対岸に宮島を望むこの地に、サクラオブルワリーアンドディスティラリーの蒸留所があります。
広島発のウイスキーやジンのつくり手として注目を集める同社ですが、その歴史は大正時代にまでさかのぼります。100年以上にわたり、広島の風土と向き合いながら、独自の酒づくりを続けてきました。
今回は蒸留所を見学しながら、広島メイドへのこだわりや、シニア世代だからこそ楽しみたいお酒との付き合い方についてお話を伺いました。
広島の地で、100周年の再挑戦
サクラオブルワリーアンドディスティラリーの歴史は、1918年に「中国酒類醸造合資会社」として創業したことから始まります。(1938年に「中国醸造株式会社」と改称)
焼酎づくりを起点としながらも、その歩みは早くから多様な蒸留酒へと広がっていきました。創業からわずか2年後の1920年には、すでにウイスキーの製造免許を取得していたといいます。
しかし、1980年代にウイスキーブームが落ち着いたことで、ウイスキーの製造はいったん休止することに。長い年月を経て再びウイスキーと向き合うきっかけとなったのが、創業100周年という節目でした。
「このタイミングでもう一度蒸留酒に挑戦しよう」という思いから蒸留所の設立が決まり、ウイスキーづくりが再始動しました。

桜尾にある蒸留所「SAKURAO DISTILLERY」。取材と合わせて見学しました。(画像提供:株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー)
再開にあたっては、かつての製造ノウハウが社内にほとんど残っておらず、まさにゼロからの挑戦だったといいます。プロジェクトチームを立ち上げ、イギリス・ロンドンなど蒸留酒の本場を訪ね、文化や歴史、価値観を学び直すところからのスタートでした。
こうした新たな挑戦を象徴する出来事が、2021年の社名変更です。
「創業の地・桜尾から世界へ」という思いを込めて、社名を「株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー」へ。地元に根ざしながら、世界に向けて発信していくという決意が込められています。
創業100年を超えてなお続く挑戦の背景には、革新を重ねてきた歴史があります。
過去には、世界で初めて紙パック入りの清酒を開発するなど、時代の変化に応じた取り組みを続けてきました。
「発酵技術と地元資源を生かし、挑戦を続ける」という経営理念は、今も変わらず企業の原動力となっています。
山と海、広島の風土が育む味わい
サクラオブルワリーアンドディスティラリーが大切にしている「広島メイド」へのこだわりについて、実際にお酒づくりに携わる山本さんに詳しくお話を伺いました。
なかでも、シニア世代のお客さまから支持を集めているシングルモルトジャパニーズウイスキー「戸河内」と「桜尾」を中心に、ものづくりの背景や味わいの魅力に迫ります。
製造本部ブレンダー室 室長 山本 泰平(やまもと たいへい)さま

終始、穏やかな語り口で応じてくださった山本さん。
■酒造りに広島産の材料を使われている点から、地元・広島への強い愛着を感じます。
山本 泰平さん(以下、山本):広島メイドという点では、昨年発売したブレンデッドジャパニーズウイスキー「SOGAINI(ソガイニ)」があります。ネーミングに広島弁で「そんなに」を意味する言葉を取り入れて、地域の方に関心を持っていただけるといいなと思っています。
また、ジン「SAKURAO GIN LIMITED(サクラオ ジン リミテッド)」では、使用するボタニカル(風味付けの素材)をすべて広島県産で揃えています。地元のものを使うという考え方は、私たちの酒づくりの根底にありますね。

ジンに使用するボタニカル。柑橘類から、牡蠣の殻、木のクロモジまで。

ジンに欠かせないジュニパーベリー。右は広島産のジュニパーベリー。国産はとても希少なんだそう。
■シングルモルトジャパニーズウイスキー「戸河内」と「桜尾」には、広島ならではの環境が生かされていると聞きました。
山本:広島は「海も山もある」非常に珍しい土地で、私たちはその両方の環境を熟成に活かしています。
「戸河内」は、山あいにある廃線トンネルを熟成庫として使用しています。低温で湿度が高く、ウイスキーの本場・スコットランドに近い環境で、ゆっくりと熟成が進みます。焼酎の熟成で培った経験から、ウイスキーづくりでも「トンネル熟成は欠かせない」と考えました。
一方、「桜尾」は瀬戸内海のすぐそばで熟成しています。夏の暑さや冬の乾燥といった気候の変化を、よりダイレクトに受けるのが特徴です。
■海沿いの立地は、ウイスキー造りには珍しいですね。
山本:日本では少ないかもしれませんが、スコットランドのアイラ島など、世界的に有名な蒸留地には海沿いの環境もあります。私たちは「海のそばだからこそ生まれる潮風の香り」を表現したいと考えました。これは国内の蒸留所でも例が少ない、私たちならではの強みだと思っています。
五感で楽しむウイスキー時間
■60代以上のシニア世代に向けて、戸河内と桜尾の個性の違いや楽しみ方を教えてください。
山本:「戸河内」はスモーキーさがなく、フルーティーでスッキリとした味わいが特徴です。ハイボールや水割りなど、ライトな飲み方がよく合いますよ。お食事中や、ご友人やご家族と飲みながら語らうシーンにおすすめです。
「桜尾」の方は、湿度が低く熟成が早く進む環境のため、樽の成分がしっかり溶け出し、色も濃い琥珀色になります。スモーキーな原酒やシェリー樽の原酒など様々な樽の熟成酒をブレンドした、こってりした味わいです。食後にナッツやチョコレートなどをつまみながら、ロックやストレートで一人の時間をゆったり楽しむのに向いているかなと思います。

「戸河内」と「桜尾」。桜尾の方が濃い色合いです。

手前はウイスキーの原料となる麦芽。左はピート燻製で、スモーキーな香りが広がります。
■蒸留所見学では、敷地内に漂う香りの豊かさに驚きました。来場された方の反応はいかがですか。
山本:「五感を使って楽しめる」というお声をよくいただきます。製造現場の音や香りを体感していただき、最後にテイスティングをしていただく。単に「美味しい」だけでなく、その背景にある魅力を探していただけているのが嬉しいですね。
実は2017年の蒸留所設計の段階から、「お客さまに体感していただくスペース」を設けることを最優先にしていました。

楽器のようなオーダーメイド蒸留器。くびれの形で蒸留の度合いが変わります。ジンもウイスキーも、材料だけを変えて同じ蒸留器を使用するんだそう!

ウイスキーのもろみ(右)。発酵している様子がわかります。
■それほど「お客さまとの繋がり」を大切にされているのですね。今後の展開についても教えてください。
山本:2027年春、廿日市市吉和(よしわ)に「SAKURAO DISTILLERY FOREST SITE(サクラオ ディスティラリー フォレストサイト)」という新しい蒸留所のオープンを予定しています。
製造はすでに始まっており、吉和でつくられる原酒は、桜尾のものよりもさらに味わいが濃いのが特徴です。これを桜尾や戸河内で熟成させることで、よりバラエティ豊かなウイスキーをお届けできるようになると考えています。
新しい蒸留所のビジターセンターにもぜひお越しいただければと思います。
人生に重なる「時間を楽しむお酒」
■最後に、ZUTTOの読者の皆さまへメッセージをお願いします。
山本:ウイスキーはたくさん飲むお酒というよりも、「時間を楽しむお酒」だと思うんです。
一つは貯蔵している期間があること。今手にしているこの一杯が、3年前、4年前に仕込まれたものだとしたら、「その頃の自分はどうしていたかな」と思いを馳せるきっかけになりますね。

3〜4年、静かに熟成を待つ樽たち。空間全体がウイスキーの香りに包まれていました。
■まさに、人生の歩みと重なるようなお話ですね。
山本:私たちの蒸留所は、できてから長い年月が経っているわけではありませんが、これから先、10年熟成のウイスキーなどもお届けしていきたいと考えています。その一杯が、「10年前はこうだったな」と思い出す時間につながればと思います。
皆さまの生活の彩りとして、時間に寄り添う存在になれたら、作り手として嬉しいですね。

蒸留所に隣接するビジターセンター。ここでしか出会えない商品も。(画像提供:株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー)
★ビジターセンター情報はこちらから
https://www.sakuraobd.co.jp/shop/
★蒸留所見学はこちらから
https://www.sakuraodistillery.com/fieldtrip/
※記事ではご紹介していないお楽しみもあるそう。気になる方はぜひ足をお運びください!
プロフィール
株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー
TEL/0829-32-2111(代表)
URL/https://www.sakuraobd.co.jp/
事業内容/ウイスキー、ジン、焼酎、清酒、リキュールなどの製造、販売
編集部より
取材を終えたあと、どうしても気になってビジターセンターで「戸河内」と「桜尾」のミニウイスキーセットを購入。どんな表情の違いが楽しめるのか、ゆったりとした時間を用意して味わうのを、今から楽しみにしています。






